ワインの資格  ———業界の頂点とは?

日本でワインのプロは?と言った場合、まずソムリエを思い浮かべます。実際、<神の雫>などが流行るように、日本においてはワインの権威 イコール ソムリエという構図が、確立されているように思われます。

ソムリエは資格を持たずに、経験だけで<自称>することも出来ますが、
近年はプロとしての資格が認識され始め、日本でも検定試験仕様の資格試験が確立されています。ただ、日本の検定試験はフランス偏重という批判があるようですね。これは、世界的にみてフランスワインの比重が軽くなってきている近年の傾向を鑑みると、日本独特のワインカルチャーが影響しているのでしょうか。

ソムリエとしての世界的な最高資格はマスターソムリエ (欧米の業界では、略してMSと呼びます)というタイトルですが、この資格を世界的な規模で審査し、コントロールするのはCourt of Master Sommeliers (マスターソムリエ役員会議)というロンドンにある本部です。

日本にも業界のパイオニア的存在の田崎マスターソムリエを始め、既に数人のMSが大活躍されていますが、こちらは日本のソムリエ協会が認定している名誉資格といわれております。このように、国のレヴェルで行うその国独特の資格と、国際的に認知された検定試験がありますが、後者の場合は英語或は仏語での理論と試飲を受験するので、外国人としてチャレンジする場合には、相当な語学力を要求されます。

ちなみにCourt of  Master Sommeliers認定のMS有資格者は世界で186人。このうち北米(殆どがアメリカ人)が118名と圧倒的で、その中でもカリフォルニアで活躍するMSの数が目立ちます。カリフォルニアが世界のワインプロの集合地帯といわれる所以でしょうか。

ソムリエはサービス業に従事するワインのアドヴァイザーとして、レストランの中で顧客にアドヴァイスをし、ワインをサーブする専門家と位置づけられています。従って、高級なレストランでは、シェフとソムリエがパートナーとなり、メニューに合わせたワインのマリアージュを担当したり、最近ではシェフ自らがソムリエの資格を取ったりする傾向があります。

いずれにせよ、ソムリエをサービスとセールスの専門家と位置づけた場合、実際に一般消費者やワインの製造者に対してワインの格付けや、批評を行うのは、ワインコンサルタント、そして評論家やワインジャーナリストといわれる人たちです。

その中でも、最も権威のあるワインの専門家は?というと、これは間違いなくMaster of Wine(MW)でしょう。例えば、世界的なワインの評論家であるロバート パーカー氏も、このマスターワインの一人です。

この<神>の資格を有する人は、現時点では世界で300人程度です。また、この資格はワインサービスの技や、ワインと食事のマリアージュを中心とするマスターソムリエの世界とは異なり、ブドウ及びワイン作りの専門的な理論から始まり、世界中のテロワール、各国ワイン業界の政治経済、歴史は勿論、ワインに関するありとあらゆる全ての知識と見識を求められます。勿論、試飲は評価と評論を下す上で重要な分野で、その基準は「このワインは売れるか?」という商売の視野ではなく、飽くまで質と価値を見極めるための、厳しい物です。

このMWをコントロールする本部であるInstitute of Masters of Wine (MW機構)もロンドンに本部があり、世界の主立った地域に拠点があります。

MWといいMSといい、また後ほど説明するWSETといい、ワイン業界の中心権威は、全てロンドンに集中しているのには、理由があります。それはボルドーを始め、いわゆるワイントレード(ワイン取引)を何世紀もコントロールしてきたのは、イギリス人だったからです。フランスやイタリア、そしてスペインは昔からワインの中心的な製造地域ですが、輸出入などの売買に関しては、アングロサクソンにコントロールされてきました。

さて、究極のワインの学者ともいうべきマスターワインになるには、どんな資格が必要なのでしょうか? まず第一に、ワインの知識をアカデミックに身につけることが要求され、それにはWine and Sprits Education Trust (ワイン酒造教育機関、通称WSET)というこれもロンドンに本校を置く組織の、卒業証書を得る必要があります。

この学校は欧米を中心に、世界各地に分校があり、基礎コースというレヴェル1から始まり、中級コースレヴェル2、上級コースレヴェル3と上がっていき、全てのレヴェルの試験に合格して、やっとマスターレヴェル4に到達する訳ですが、このマスターレヴェルのDiploma (卒業証書)を得る為にかかる時間は、フルタイム最短で2年間かかるといわれています。が、実際に2年で取得する人は少ないようです。聴取したところによると、4〜5年でとれれば、順調とのことです。

というのも、マスターレヴェルの試験は、世界で製造される全てのワインのみならず、スピリッツ(ウィスキー、ジンなど)やリキュールに関する厳しい理論と試飲テストがそれぞれ6回づつあり、加えてワインビジネスに関するリサーチをし、論文として提出する必要があります。但し、このWSETの卒業証書を得る代わりに、世界の名だたる大学(例えば高名なカリフォルニア大学デイビス校や、ボルドー大学など)で、ワイン学(特にワイン作りに関連する)の学位を取得するという手もあります。

上記のアカデミックな資格に加え、 酒造業界で10年近い実務経験も必要とされます。この全てを満たした人だけが、やっとMW機構に対しての<応募資格>を持つとされます。これだけで、想像を絶する厳しさですね。そして応募資格を得て、応募をしても、MWの2年半のトレーニングプログラムに参加できるのは、毎年ほんの一握りの最優秀な候補者だけですし、大多数の候補者は、プログラム中に行われるとても厳しい試験で振り落とされ、MWの資格に行き着くのは希有だといわれています。

尤も、直接MW機構を訪ね、聴取したところに依ると、多少の近道というか、ケースバイケースの考慮はなされるということです。例えば、酒造業界に勤務をしていなくても、近年ではジャーナリストやワインライターといった職種も選定の対象となりましたし、10年勤務ではなく、それなりのユニークな功績などがあれば、絶対的な期間ではないとのこと。これはつまりMWの人材をもっと幅広く求め、業界のオンブズマンを輩出したいという意思ではないかと、推察しています。

かくいう私も、折角ワインのプロを目指すのなら、最高峰を!とばかりに、まずCourt of MS認定のソムリエの資格を取得した後、フランス各地のワインスクールに留学し、フランス人のソムリエ達と共に理論を学び、試飲を重ね 実際にシャトーを訪問して、現地のワイン作りを学びました。その後には、WSETのロンドン本校で上級資格も取り、現在北カリフォルニア校サンフランシスコでマスターレヴェルで切磋琢磨中です。

世界中に散らばるWSETの中でも、サンフランシスコ校はその「地の利」を最大限に生かした素晴らしい環境にあります。それは、すぐ北にナパ、ソノマというアメリカ最高のワイン地域が控えているだけではなく、東に行けばローダイを始めとする広大なブドウ生産地域, 南に下ればサンタクルーズ、モンテレー、パソロブレス、サンタバーバラと限りなくワイン地域が広がっています。また、講師の質が素晴らしく、ワイン研究では世界をリードするカリフォルニア大学デイヴィス校出身の地場のワインメーカー、マスターワインやマスターソムリエといった業界のトップが直接教鞭をとり、しかも講義の後は早速近場のワイナリーやブドウ畑を訪ね、学んだ知識を実際の目で確かめることが出来ます。車で一時間も行けば、これらの地域に着くので、私も毎週各地のワイナリーに通っては試飲をし、ブドウ畑を歩き、テロワールを学び、そこで働く人たちと話し合うことが出来ます。

同級生はワインの中心であるサンフランシスコに、世界中から集まってくるプロが多く、大手販売会社の管理職、名門ワイナリーのワインメーカー、そしてワインライターなど様々。このプログラムの面白さは、欧米ならではというか 私のような<若くしてリタイア組>が多く、元弁護士や金融マン、IT業界からの転職組がとても目立ちます。どうせ生きるなら自分の本当の夢を追求するさ!とばかりに、皆厳しい試験勉強と仕事を両立させ、生き生きとしていますよ。こういうネットワークはワインの仕事をしていく上でも、人生の宝として、財産になることでしょう。

私の夢はきちんとした知識と見識を身につけたワインのプロとして、あらゆる人にワインの楽しさ、奥の深さを伝えながら、ワインを触媒として人々の人生に触れていくこと。ですからこのサイトでは、私の知っている限りの知識と技を、皆さんにお伝えしようと思います。本音を言うと、もっと日本の若い人や、転職組の方々も、この資格を目指して、切磋琢磨して欲しいと思います。そして日本に何人ものMWが生まれ、世界観を身につけたワインの教育者や、業界のしがらみに左右されずに、バランスと見識を持って、ワインを格付けできる人材が多々輩出されんことを、切に願っています。

 

Yuki Saito

斉藤ゆき

Diploma WSET, Certified Sommelier, Master of Wine Program
ワイン・コンサルタント 品評会審査員 ワイン・ライター

ニューヨークで金融キャリアを構築後、 生涯のパッションであるワインを、欧米のトップスクールで学び、日本人として希有な資格を数多く有するトッププロ。

ワイン教育の最高学府、Wine and Spirits Education Trust (WSET)の学位(レベル4最上位)をカリフォルニアで、上級資格(レベル3)をトップで本校(ロンドン)にて取得。更に、ソムリエ機関の世界的権威であるCourt of Master Sommeliers(ロンドン)の認定ソムリエ資格も有する。フランス留学は頻繁で、ボルドー、ブルゴーニュを始め、各地のワインスクールでフランス人と共に学ぶ。

現在は、サンフランシスコをベースに、ワインの顧問業務(日米)、連載記事の執筆と講演(日米)、品評会審査と視察(日欧米)を3本柱に活躍する傍ら、ワイン業界最高峰といわれるマスター・オブ・ワインのプログラムに所属し、MWを目指して切磋琢磨中。

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