濁ったワインは優良なワイン!?

先日友人からこんな質問を受けました。「人から『このワインはとても美味しいので、是非飲んでみて下さい』と頂いた白ワインがあるのだけど、よくみるとちょっと濁り気味なのね。同じメーカーのシャルドネを飲んだ事があるのですが、もっと澄んでいて、とても美味しかったけど、、、」とのこと。

 メーカー名を聞いて、「それはフィルターされていない(ノンフィルター)シャルドネのことじゃない?」と確認すると、「そう、確かラベルにそう書いてあったかも。フィルターって何?」という、ごもっともな質問。

 よござんしょう。まずはそこから説明しましょう。ワイン造りの過程で、潰したブドウ(=ジュース)から時間をかけて出てくる残留物や、酵母菌の残骸などが、樽(或はステンレススティール)の底に溜まっていきます。実はワインの旨味と、長期熟成度は、こういったブドウの皮や、実の間に有る成分と、発酵を終えてワインの底に沈んでいる酵母菌が分解されて出てくる成分に依って、作られるのですね。

 とはいえ、こういう澱を全て残しておくと、苦み、酸化、異臭などの原因になるので、ワインメーカーはこの「旨味」の部分を取り去らずに (即ちフィルターにかけずに)、「異分子」だけを除去することに、心を砕くのですね。尤も、そういうメーカーは、自然派(オーガニック、バイオ ダイナミック)や、ブティックワインといわれる小規模で高品質の作り手、そして高名シャトーなど、時間と手間暇を惜しまないワイナリーに限られますけれども。

 一般には、澱を全て取り除く「フィルタリング」を、瓶詰めの直前に行います。そうすることで、白ワインなら透き通る様に輝く「ブリリアント」な色になりますし、赤ワインでも同じく光を良く通すきれいな赤になる訳です。何故、フィルターするかというと、基本的には消費者が「見た目がきれいなワイン」を望むからですね。そして作り手も、瓶詰め前にフィルターをしてしまえば、旨味やワインの複雑な味わいが減っても、間違って残った不純物から起きるワインの酸化、劣化などのリスクを事前に除去出来るので、簡単です。

 フィルターの方法は多々ありますが、分かり易く言えばコーヒーを濾過紙で通すイメージですね。最近はコーヒーも濾過(ドリップ式)ではなく、ポットに入れたコーヒーに直接お湯を注ぎ、金具で押さえて上澄みのコーヒーを注ぐ飲み方も見かけますが、この場合は、濾過したコーヒーと違い、少し濁った液体になりますよね。

 まあ、これは飽くまでイメージとしての例えですが、ワインの濾過も、澱が全く通らない超微粒子のフィルターを使って、ブリリアントに輝くワインにしたり、粗目のフィルターを使って、多少の旨味が残る様に調整したりと色々ですね。

 究極は一切フィルターをかけない製法。といっても、この場合は瓶詰め前の一斉フィルターをしない代わりに、樽で寝かしている間に、樽の底に溜まった沈殿物だけを残して、上澄みのワインの美味しいところを他の樽に 移し替えるという「澱引き」を何度もかけます。これはコストも時間もかかる大変な作業ですから、ワインも割高になりますが、質も向上します。

 友人が頂いたワインはナパの優良なワイナリーであるニュートン(Newton)のシャルドネで、このワイナリーではわざわざ「普通のフィルターをかけたシャルドネ」とこの「ノンフィルター(Unfiltered)シャルドネ)を作っています。当然ノンフィルターのお値段の方が高いのですが、ニュートンのフィルターワインは、ノンフィルターのほぼ倍近くと割高。

 えっ?2倍?と思われるかもしれませんが、それは「澱引き」のコストが高いというだけではなく、ニュートンでは、わざわざこんな優良なワインを作るのであればと、使うブドウもより秀逸な畑からとれるブドウを使っているので、これだけお値段に差が出て来ているのです。というか、ノンフィルターのワインを作るというメーカーは、それをするだけの価値の或る高品質なブドウを使い、全ての行程にも通常以上の手間暇をかけますから、必然的に一本当たりのお値段が上がって来ます。私もこの2種のニュートンのシャルドネを飲みましたが、差は歴然としていましたよ。でも両方とも、良く出来たワインでした。

ノンフィルタワインといえば、個人的には、私はキスラーのシャルドネをここ何十年と愛飲していますが、それは複雑で味わい深く、年々の変化を楽しめるワインです(写真右)。ヨーロッパでも、アメリカでも、こういうワインメーカーは大変なこだわりを持って、ワインを作っているのですね。

 ちなみに、ワイン通であればノンフィルター ワインを好んで購入しますし、またレストランなどでワインが微妙に濁っていた場合には、ソムリエに「あら、ノンフィルター ワインね。嬉しい!」と言ってから、頂きます。ソムリエであれば、「ああ、この人はワイン通だな」と認識し、そういう待遇をするであろうし、万が一間違ってフィルターワインなのに、濁っていた場合には、慌てて引っ込めて、新しいワインを注ぐでしょうから。

 そう、最後の忠告。濁ったワインが全て美味しい訳ではありませんよ。フィルターをかけたのに濁りが生じるのは、瓶の中の不純物がワインを劣化させている証拠。購入の際には、この点の確認を怠り無く。

Yuki Saito

斉藤ゆき

Diploma WSET, Certified Sommelier, Master of Wine Program
ワイン・コンサルタント 品評会審査員 ワイン・ライター

ニューヨークで金融キャリアを構築後、 生涯のパッションであるワインを、欧米のトップスクールで学び、日本人として希有な資格を数多く有するトッププロ。

ワイン教育の最高学府、Wine and Spirits Education Trust (WSET)の学位(レベル4最上位)をカリフォルニアで、上級資格(レベル3)をトップで本校(ロンドン)にて取得。更に、ソムリエ機関の世界的権威であるCourt of Master Sommeliers(ロンドン)の認定ソムリエ資格も有する。フランス留学は頻繁で、ボルドー、ブルゴーニュを始め、各地のワインスクールでフランス人と共に学ぶ。

現在は、サンフランシスコをベースに、ワインの顧問業務(日米)、連載記事の執筆と講演(日米)、品評会審査と視察(日欧米)を3本柱に活躍する傍ら、ワイン業界最高峰といわれるマスター・オブ・ワインのプログラムに所属し、MWを目指して切磋琢磨中。
1 返信
  1. Samurai
    Samurai says:

    濁ったワインが悪いものではないこと、ガッテン!過去何度か高いレストランで出てきて、ちょっと不信感を持ちながらも(弱気の性格が功を奏して)文句を言わなくて良かったです。でも、濁ったワインは貯蔵温度などにより気を使う必要があるのでしょうね。良人(イースト)君がフィルターしたものより多分大勢混ざっているでしょうから。前に濁り酒(日本酒)を飲んで酸っぱいのに辟易したことがありますが、あれもきっと貯蔵に”すっぱい”していたんでしょうね。。。お粗末でした。楽しくためになるゆきさんのブログ楽しみにしてます。

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