フランスの生活の質が落ち込んだというのは、グルメ或は飲食業会の常識でもありました。実際、1990年代から最近まで、パリの名だたるミッシェラン星のレストランに行って、感動したことはありませんし、フランスの象徴とも言えるパン、バゲットを食べても、「こんなもんか!」と思うことの方がしばしば。

 

ワインに至っては、ほんの一部の超高級(値段が)有名ワインを除く、大部分の未成熟(青臭い)ワインが売れ残り続けて、始末に困っていました。その間に、安くて質の良い新世界のワインが、当然のことながら、世界市場のシェアーを延ばし続け、近年はヨーロッパワインの販売量、消費量が確実に落ちて来ています。

グルゴーニュの高名なレストランにて

これに危機感を覚えたフランスは、同じ状況のイタリア、スペインとともにEUの財政的サポートを得て、この10年程ワイン業界のリストラに注力してきました。特に力をいれたのが、昔ながら手法で「渋い、青臭い、すっぱい」チープワインを作り続ける駄目ブドウ農家に、一時金と引き換えに撤退を奨励したこと。ブドウの木を根こそぎ引き抜き、農園を廃業する農家が続出しました。また、新世界では当り前の最新テクノロジーを、地方の農家にも援助することで、ワインの質の向上を図りました。

 

この数年、フランスを訪ねて感じるのは、食文化に活気が戻りつつあること。例えば、パリの当たり前のビストロやカフェの質が上がっており、バゲットも探せばとても美味しい昔ながらのぱりぱり、しっとりパンが味わえること。

 

これはワインの世界にも通じる変化です。毎年訪問するボルドーやブルゴーニュで、直近のヴィンテージを試飲して強く感じるのは、彼らも新世界のワインを意識してか、今風のワインを作り始めています。世界の潮流は「買ってすぐに(或はじきに)おいしく飲めるワイン」。ボルドーの一級シャトーでも、ブルゴーニュのグランクリュでも、「10年以上待つと、タンニンがこなれて、酸味が緩和された美しい熟成ワインになります」というワイン一辺倒ではなく、開けてすぐでも充分楽しめるタイプが増えて来ました。

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もっとも彼らはこの傾向を、「世界的な気候の温暖化で、ブドウが昔よりも熟成するようになったこと、そしてブドウ栽培とワイン醸造の新しい手法を取り入れたことで、よりクリーンなワインが出来るようになったこと」と説明します。実際、以前に比べて大手のワインメーカーのお蔵を訪ねると、ナパの醸造所のように、ピカピカで衛生的なお蔵が増えて来ました。とはいえ、地方の小さなワイナリーなどは、まだまだ衛生や設備の面で、問題があります。先日訪れたブルゴーニュの一級ドメーヌでさえ、ちょっと裏に回るとお化け屋敷のような、不潔で荒れた家屋が目につく始末。

 

ブルゴーニュといえば、富裕なボルドーのシャトーと違い、自分で7代目という小さな家族経営のドメーヌが主流で、英語が通じづらい地域。ところが最近ではイタリア、スペインの有力ワイナリー同様、息子や娘をアメリカ、オーストラリアなどに留学させ、新世界の栽培、醸造知識を吸収。国際人として視野も広く、英語も上手な若いワインメーカーが増えていることは、嬉しい限りです。

 

シャブリの若いワインメーカーと

Yuki Saito

斉藤ゆき

Diploma WSET, Certified Sommelier, Master of Wine Program
ワイン・コンサルタント 品評会審査員 ワイン・ライター

ニューヨークで金融キャリアを構築後、 生涯のパッションであるワインを、欧米のトップスクールで学び、日本人として希有な資格を数多く有するトッププロ。

ワイン教育の最高学府、Wine and Spirits Education Trust (WSET)の学位(レベル4最上位)をカリフォルニアで、上級資格(レベル3)をトップで本校(ロンドン)にて取得。更に、ソムリエ機関の世界的権威であるCourt of Master Sommeliers(ロンドン)の認定ソムリエ資格も有する。フランス留学は頻繁で、ボルドー、ブルゴーニュを始め、各地のワインスクールでフランス人と共に学ぶ。

現在は、サンフランシスコをベースに、ワインの顧問業務(日米)、連載記事の執筆と講演(日米)、品評会審査と視察(日欧米)を3本柱に活躍する傍ら、ワイン業界最高峰といわれるマスター・オブ・ワインのプログラムに所属し、MWを目指して切磋琢磨中。

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