豪州ワインといえば、安くて飲み易いシャルドネやシラーズのイメージが強い。フルーティーなワインを好む 米市場に狙いを絞り、豪州各地のブドウをブレンドしてコストを抑え、強い経済力と豪米ドルの差益をバックに、大量輸出に成功した イエローテール(黄色いカンガルーのレベル)などの功罪だ。高級ワインといえば、ブドウが育った小さな土地の風土や気候を表現する「テロワール・ワイン」だが、広大なオーストラリア各地から、割安で質のよいブドウをかき集め、ターゲット市場の好み合わせてブレンドしたワインは、広く大衆の支持を集めた。

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皮肉なことに、豪州には 多くのプリミアム銘柄や、ヨーロッパ、カリフォルニアに引けを取らない素晴らしいワインが多々存在する。が、底辺市場からエントリーしたイメージが尾を引いているせいか、米国市場でこういうワインにはなかなかお目にかかれない。海外で豪州ワインをプロモートする政府機関、ワインオーストラリアもこの点を懸念し、現在ではもっぱら「これがオーストラリアのワインか?」と思わせる、はかなげで、エレガントなワインばかりを紹介するイベントに余念がない。かくいう筆者も、そういう機会に何度か恵まれ、豪州ワインに対する興味が更に深まった一人で、4月に3週間のオーストラリア取材をしてきたばかりだ。

 
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実は訪問にあたって、自分なりのもう一つのプロジェクトを温めていた。それはアメリカ人が豪州ワインに音痴なのと同じく、彼らもアメリカワインに対する先入観、或は無知があると推測し、アメリカワインの懐の深さをプロモートしようと画策。ところが、行く先々で出会う美しいワイン、意外なスタイルにすっかり心を奪われ、ミイラ取りがすっかりミイラになってしまった感がある。しかも、 こちらが選んだ取材相手は「ナパはもう充分だ。ソノマやオレゴンで、良いワインを作っている」「実際、アメリカでも修行した」という国際派も多く、自国を越えたワインへの深い思い入れにすっかり同調してしまった。

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広大な豪州ゆえ、3週間では時間が足りず、取材先の焦点を絞った。同国を代表するワインメーカー、ブドウ栽培農家、これからのオーストラリアを担う若い醸造家達を訪ねた。世界的名声を誇るバロッサ・バレーの樹齢百年以上の古木畑や、地域の土を隅々まで視察し、樹齢が異なる(20〜125年)ブドウで作ったワインを並べて試飲しているうちに、3時間のはずのアポが5時間半に延びてしまうことも多々あった。 古木から作る美しく凝縮した力強いシラーズや グルナッシュに圧倒され、冷厳なアドレード・ヒルズでつくるきれいなシャルドネ、クレア・バレーのミネラル分の高いリースリングに感動し、 ヤラ・バレー、タスマニアの ピノ・ノワールの期待通りのピュアな質に納得し、 ハンター・ヴァレー(同じく)のクラシックなセミヨンの古酒を頂くという貴重な体験もできた。

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今になって、訪問前に想像していた構図、『豪州ワイン=米西海岸ワイン』は色々な意味で当たらずと言えども遠からずではあったが、ひとつの決定的な違いに思いを馳せている。それは、ワインの輸出国である豪州と、国内消費国、米国との構造的な違いである。既に世界一のワイン消費国になったアメリカは、国産ワインを全て自国で消化できる需要と供給の見合った、世界唯一の国だ。 この違いが両国のワイン作り、政策にどのような展開をもたらすのか、興味津々である。

Yuki Saito

斉藤ゆき

Diploma WSET, Certified Sommelier, Master of Wine Program
ワイン・コンサルタント 品評会審査員 ワイン・ライター

ニューヨークで金融キャリアを構築後、 生涯のパッションであるワインを、欧米のトップスクールで学び、日本人として希有な資格を数多く有するトッププロ。

ワイン教育の最高学府、Wine and Spirits Education Trust (WSET)の学位(レベル4最上位)をカリフォルニアで、上級資格(レベル3)をトップで本校(ロンドン)にて取得。更に、ソムリエ機関の世界的権威であるCourt of Master Sommeliers(ロンドン)の認定ソムリエ資格も有する。フランス留学は頻繁で、ボルドー、ブルゴーニュを始め、各地のワインスクールでフランス人と共に学ぶ。

現在は、サンフランシスコをベースに、ワインの顧問業務(日米)、連載記事の執筆と講演(日米)、品評会審査と視察(日欧米)を3本柱に活躍する傍ら、ワイン業界最高峰といわれるマスター・オブ・ワインのプログラムに所属し、MWを目指して切磋琢磨中。

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