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日本に出張した時のお話。 売れ筋やら品揃えの市場調査のために、広尾で目に付いたワインショップにぶらっと立ち寄った。あまり質が良いとは言えないカリフォルニアやヨーロッパのワインが雑然と並び、値段と質が見合わない。それでも場所柄繁盛しているらしく、可愛らしいお嬢さんが二人、店員さん(どうやらオーナーらしい)に「ワインのことはわからないので、これから行くパーティーに持って行く良いワインを教えてくれますか?」と聞いている。予算は3千円ほどらしい。興味を持って聞き耳を立てた。そして次の瞬間、信じられないアドヴァイスを耳にする。既に2月に入っているというのに、売れ残ったボージョレヌーボーを「とても美味しいワインですよ。きっと気に入っていただけると思います。」と三千五百円で売ったのだ。旬が過ぎて鮮度の落ちたワインを、客の予算をオーバーして売りつけただけではなく、その値段でもっとまともなワインを置いてあるのに関わらず、在庫整理のためとしか思えない商品を、押し付けている。こんな店は信用してはいけない。お嬢さんたちが「良いものを選んでくれて、ありがとうございます」と店主に言い残して店を出たのを見て、グッと怒りを飲み込んだ。

サンフランシスコのセゾンのオーナーはソムリエ

超早飲み用にちゃっちゃっと作った格安ワインのヌーボーは、 11月下旬のリリースから数週間以内に飲みきるのが常識だ。 アメリカでも「感謝祭直前にヌーボー解禁!」という商戦が当たり、ひところ流行ったものだが、それでもクリスマスまでには飲みきらないと、という感覚があった。鮮度だけが取り柄のワインだから、年を越すと味が落ちる。ほんの数ユーロで買える新酒が日本で十倍することも釈然としない。あれだけ質と味にこだわる日本人が、なぜヌーボーをもて囃すのか不審だと言われて、 商魂逞しい仏生産者と邦販売者が結託して、日本人の「旬を愛でるカルチャー」を手玉に取っているのと説明すると、結構納得してもらえる。実際、ヌーボーが何かを分かっていながら楽しむのなら、風情がある。要は「理解する」ということなのだ。

 

これはサンフランシスコでのお話。評判の良いソムリエがいるという新しいレストランに行った。面が割れていないのが好都合だ。 折角だから予算と好みを説明して、彼に選んでもらった。そして何故この人が優秀なのか納得した。予算より安いもので質の良いものを選んできたのだ。試しに(性格悪いです)「これよりちょっと高いワインでもっと良いものある?」と聞くと、即座に2つのワインを出してきた(要は、プロのソムリエらしく、事前に準備してあったのだ)。一つは予算ぴったり、もう一つはちょっとだけ高いけれども、かなり良い生産者のもの。この人のアドヴァイスなら安心できると、その夜は結構な散財をしても良い気持ちで帰宅したものだ。とはいえ、こちらがワインに詳しいから、判断できることだろう。

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では、一般の消費者は、誰を信用すれば良いのだろう?友人にパーカー(米ワイン評論家)のスコアーだけを見て、ワインを買い漁る人がいる。かと思うと、ワイナリーに行って、ワインメーカーの話を聞き、すっかりファンになってそこのワインクラブのワインをずらっと集める人もいる。自分が飲んでみて、好きになり、買ってみるというのは悪くない。ただ、スコアーやリップサービスを信じて、ワインを判断するのは危険だ。例えば、ワインメーカーがよく言う「ぶどうを丁寧に育てて、手作業で栽培しているから、テロワールを体現している」とか「毎年ベストなワインを作ることだけを考えて、切磋琢磨している」セリフ。聞くたびに、そんなのプロなら当たり前だろ〜が!と毒づきたくなる。ワインのラベルやカタログに書いてあるきれいごとも、無視した方が良い。 値段でさえ、ワインの質と比例しないことを知って欲しい。毎日食卓にワインがあった家庭に育った人はともかく、普通はみんな手探りしながら自分の好きなワインを見つけていくものだ。一緒に成長していく友人(恋人?)みたいなものだと思えば良い。そしてアドヴァイスを求める相手の、押し出しや肩書きに惑わされず、しっかりと相手の人となりを見て欲しい。

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Yuki Saito

斉藤ゆき

Diploma WSET, Certified Sommelier, Master of Wine Program
ワイン・コンサルタント 品評会審査員 ワイン・ライター

ニューヨークで金融キャリアを構築後、 生涯のパッションであるワインを、欧米のトップスクールで学び、日本人として希有な資格を数多く有するトッププロ。

ワイン教育の最高学府、Wine and Spirits Education Trust (WSET)の学位(レベル4最上位)をカリフォルニアで、上級資格(レベル3)をトップで本校(ロンドン)にて取得。更に、ソムリエ機関の世界的権威であるCourt of Master Sommeliers(ロンドン)の認定ソムリエ資格も有する。フランス留学は頻繁で、ボルドー、ブルゴーニュを始め、各地のワインスクールでフランス人と共に学ぶ。

現在は、サンフランシスコをベースに、ワインの顧問業務(日米)、連載記事の執筆と講演(日米)、品評会審査と視察(日欧米)を3本柱に活躍する傍ら、ワイン業界最高峰といわれるマスター・オブ・ワインのプログラムに所属し、MWを目指して切磋琢磨中。

2 Comments

  • Shinichi Ishihara 11月 2, 2016 at 7:44 am

    Yukiさん、いつぞやは美味しいワイン、ありがとうございました。やっぱりイタリアンの空席待ちで立ち飲みしたピノノアールが最高でした!東京での(それも広尾?!)ボジョレーの話、さもありなんですね。僕も仕事柄(はい、輸送業です)、かつてボジョレーヌーボー解禁ががお祭り騒ぎで有難がられていた頃、ジャンボ貨物機をチャーターして日本の仲買、小売店にお届けするなど、携わったことがあります。最初にその仕事に携わったのは23、4の社会に出たてのころで、それまでワインを口にしたことなどほとんどなく、ボジョレー配送完了(解禁日の一日前ですが!)の打上げで口にしたボジョレーヌーボーが、自分にとってのほぼ初めてのワイン体験でした。その時の印象は今でも覚えていますが、「こんなもん有難がって飲むの?大人の味?」不幸にもワインを好きになれませんでした・・・。今でも、きっと多くの日本の人が、「ワインはボジョレー」なんて思ってるんでしょうねぇ。このワインショップのオーナーは頂けませんね。「居酒屋のお勧めメニューは在庫処分の場合が多い」とほぼ同義です!
    小生の場合、ラッキーなことにその数年後、サンフランへの研修(1年)の機会を得て、セイフウェイで買った10ドルほどのBVやモンダヴィに衝撃を受け、ほどなくカリフォルニアワインに嵌り、NAPAへ入り浸ることになりました。おかげで、今に至るまでほぼ毎晩一本づつ消費することになりました。人の評判・・・うーん、気にはなりますが、まあ自分の気に入ったものが飲めれば。因みに、近所のスーパーでいつも冷えてるから買うのですが、最近はChateau The MichelleのSauvignon Blancを気に入って飲んでます。
    ほえ~、長くなってすみません。あ、それと、明日から日本です。東京でワインの美味しいとこ、ここ行ったらいいよというとこあったら教えてください!
    では。

    石原

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    • yukisaito 11月 5, 2016 at 3:19 pm

      石原さん、娘からコメントが入っていると言われて、やっとこの書き込みに気がつきました。返信遅くなし失礼しました。嬉しいコメントの数々、ありがとうございます。ちなみに、日本(とうきょう)では、私は(滞在する場所柄)麻布十番にあるスーパー(名前が一瞬ででこない。。。。焼肉屋さんが経営している外人が多い店)でワインを買います。そこが一番まともがカリフォルニアワインをおいてあるのです。それと私が気軽によく飲むイタリアのスパークリング、フランチャコールタ(日本でも3千5百円くらいで買えます)を唯一うっているみせ。。。それにしても」名前が。。。いつまで滞在されますか?私が顧問をしているカリフォルニアワインの会社が斉藤ゆきが選んだのかカリフォルニアワイン会というのをおこなうはず、、、。良ければ、メールをください。

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