ドン・キホーテの故郷、ラマンチャを訪問する

image

3月に続いて6月〜7月も、スペイン中部のワイン地域を視察してきた。3月に始めてマドリッドに腰を据えて周辺地域を廻ったところ、その人情や風情にすっかり魅了され、6月のヨーロッパ視察は、フランスやイタリアを早々に切り上げて、マドリッドにアパートを借り、本拠地とした。これは仕事だけではなく、個人的な事情がある。

image

30年以上もニューヨークの大陸性気候に親しんだお陰で、 夏は暑く、冬は寒いのが好みだ。まず、ファッションが楽しい。食事の変化も楽しめる。それに引き換え、現在居を構えているサンフランシスコは、一年中同じ様な温度と天気で、特に夏は寒い! 「一番寒い冬は、サンフランシスコの夏だ」という至言があるが、7月や8月でも20度程度の寒さだ。しかも海からの冷風が通り過ぎる朝晩は、薄手のオーバーが必要になる。そこで、夏はサンフランシスコを後にして、暑い地域の視察に集中することにしている。

image

首都マドリッドも相当の暑さで、日中は33度から36度くらい。ヒートアイランド現象もあってか、町中は夜の10時でも相当暑い。お陰で、大好きなタンクトップとショートパンツにビーサンを引っ掛けて、冷たいビールを楽しめる。天国だ!スペイン人に呆れられながらも、スペインで最も過酷な暑さと言われているラマンチャまで、視察に出かけた。マドリッドから 新幹線並みの超高速鉄道に乗り、南へ1時間で着く地域だ。招待してくれたワイナリーのオーナー達は、「くれぐれも朝一番の汽車に乗って来てね!畑の視察は、午前の早いうちでないと、体が持たないからね」と優しい。実際畑に着いた時点で、温度は37度。

image

この地域は、スペインのど真ん中に位置し、アメリカで言うと、オマハやネブラスカのような比較的平坦な農業地帯である。ブドウは勿論、パン用の小麦やトウモロコシなど、見渡す限りの穀物畑が続く。そう、あのラマンチャの男、ドンキホーテの故郷である。最高傑作として誉れ高い本や、ロングランを続ける舞台を見られた方も多いと思う。畑の視察を終え、蔵に入った時点で、温度は40度に達していた。こういう暑い地域の特徴で、赤ワインはどっしりとアルコール度が高く、もったり系のフルボディーを予想していたら、以外にもアルコール度数が13%前後と低めの、ジューシーなワインだった。理由を聞くと、この地域の農家は昔ながらの農法で、ブドウの収穫量(一本の木に実らせるブドウの房数の割合)が高いため、糖度が低く、アルコール が薄くなる。こういうブドウは、スペインの他の地域に大量に送られ、「かさを増す為に混ぜるブレンド用」として使われること多いのだ。

image

とはいえ、今回訪問したボデガ ラ テルシアは、オーガニックのロゼワインを作ったり、凝縮度の高い赤ワインを醸造する良心的なワイナリーだ。ニューヨーク市内のアスターワインにも卸している。一日の訪問と、スペイン独特の長いランチ(大抵3時くらいから始まって5時過ぎまで続く。暑いので、外で作業ができないため、この時間帯は食事に当てて、正解なのだ)を終え、さて今夜のホテルは?と、聞いてみると、『すごく特別な家を用意してあるんだ』という。なんと、ドンキホーテの作中にもでてくる、水車小屋が建ち並ぶ歴史地区(写真)で、地方独特の白と青のペンキで塗った母屋だ。折角の好意なので、一旦泊まることにしたものの、暑い、ワイファイも電話も通じない(仕事ができない)、レストランも近場にない、という三重苦に音を上げて、夜遅くタクシーを呼んで、こっそり駅の近くまで移動して、ホテルに泊まったimageimage

イタリア最高峰スパークリングワインの生産地を訪ねる Visit to Franciacorta DOCG

image7月はミラノ郊外にある、『フランチャコールタ』という、大変ユニークなワイン地域を取材してきた。ここは、知る人ぞ知るイタリア最高級のスパークリングワイン(SP) の製造地である。すぐ隣のヴェネト州では、地場品種グレラを使って早飲み用に仕上げる、飲み易いプロセッコが大量生産されており、今では世界で最も売れているSPとなった。これに対してフランチャコールタは、シャンパンと同じく高級品種のシャルドネとピノ ノワールを限定地域に植樹し、製造もシャンペンと同じく、しっかり瓶内で2次発酵させることで繊細な泡を作り、最低18ヶ月にわたって、瓶熟成する。これは本家本元のシャンペンの最低規定期間の12ヶ月よりも長いことになる。

image

フランチャコールタの歴史は新しい。ロンバルディアというイタリアで最も洗練された地域で20世紀後半に発展した。仕掛け人は、ミラノで財をなした富裕層で、「イタリアでフランスのシャンパンを凌駕するワインを作る!」というかけ声のもと、国の定めるワイン法よりさらに厳しい自主規制を課し、短期間で地域振興を達成した。

image

今回訪問したのは、この地域の二大生産者。カーデルボスコ(Ca’del Bosco)はシャンペンに例えれば、モエテシャンドンに近い。そのスタイルはフルーティーでキレイな果実味が特徴だ。一方のベラヴィスタ(Bellavista)は、モエットの対極にあるボランジェのスタイルで、樽熟成から生まれる深みとフィネスが特徴だ。誤解を恐れずに言えば、ボスコはモエットのように万人受けするおいしい果実味があり、ベストセラーのCuvee Prestige (米国での35ドル前後)は、筆者も毎週のように気軽に愛飲している。正にイタリアの太陽と、ハイテクが生んだSPである。対して、ベラヴィスタはよりシャンペンに近いスタイルで、酸味も旨味もボスコより高く、熟成度が深い。image

スタイルは違っても、2社に共通するのは、「イタリアではブドウが成熟するので、シャンペンのキツ過ぎる酸味やシビアさはない」というポジションだ。まるでカリフォルニアのワインメーカーの言かと思ってしまうが、彼らにとってもシャンペンの非常に高い酸味は、敬遠するのだろうか。逆にあの酸味や、果実味を抑えたシビアさが好きだという人は、シャンペンを好むわけだ。

image

地域を訪問してまず驚いたのが、近代的な美しさだ。どちらのワイナリーも、超近代の造形を誇り、庭園や社内(クラというより会社に近い)にはモダンアートが惜しげもなく飾られ、まるで美術館のようだ。小高い丘に立てば、北にイゼオ湖が佇み、南はオルファノの山々が囲む地形が見られる。この湖からの湿った空気と、山からの涼風が、本来は非常に暑い地域のブドウ栽培に、良い影響を及ばしている。

image

フランチャコールタにも、課題は多々ある。まず知名度が低いこと。歴史も新しいが、生産量が少ないため、当然輸出市場も限定される。また、生産者による質のばらつきもあり、中にはソコソコの質で20ドル以下のものもあるが、この価格帯はシャンパン以外のSPがひしめく激戦区だ。逆に高品質のものは、シャンペン並みの値段が付いており、一般の消費者が両手に取ったときに、どちらを選ぶかは自明の理だ。ここで、シャンパンではなく、消費者がフランチャコールタを選ぶという構図が描けるように、生産者が一枚岩になって、マーケッティング戦略を打っていく必要がある。実例として、世界で最も成功している「ブランドシャンペン」という競争相手を追い落とすのは、容易ではない。image

シェリー酒発祥の地を訪ねる Visiting Jerez and Sanlacur

imageシェリー酒の取材で、スペイン最南西に位置するヘラス地域(Jerezはスペイン語でシェリーを意味する)に来ている。地図で見ると、イベリア半島の最西南。太平洋に面しているが、南の対岸には北アフリカが迫る。かつては海洋貿易で栄えた古都だが、現在ではスペイン国内で最も貧しい地域のひとつといわれている。とはいえ、シェリーワインの発祥地であり、今でも数世紀を経たボデガ(シェリーを醸造、保存する蔵)が町の中心に立ち並ぶ歴史と風情のある町並みだ。image
シェリー酒は、「酒精強化ワイン(fortified wine)」といわれるワインで、ワインと違うのは、アルコール度の高いリキュールを加える(酒精強化)ことで、40度以上にも達する暑いスペインの夏や、遠くイギリスや新世界にながい船旅をしていた時代に、スポイルしないという手当てをしていることだ。ポルトガルのマデイラや、イタリアのマルサラも、同じ類の酒だ。シェリーのユニークな風味は、地場でしか育たない「フロアー(flor)」と呼ばれるイースト菌の活躍による。

imageこの菌は、通常のワイン酵母と違い、常に酸素を必要とする変り種だ。普通のワインは、空気に触れると酸化する(お酢になってしまう)ため、樽に空気が入らないように常にワインで満タンにしておく必要がある。しかしシェリーの場合は、樽の1/6までしかワインを入れずに、わざと空気を樽内に閉じ込めておく。そうすることで、シェリー地方の蔵(樽も含む)に住み着くフロアー菌が、樽内のワインの表面に発生し、最後には表面を全て覆ってしまう。つまりはワインが空気に直接触れることがなくなり、酸化を防ぐというわけだ。この状態が長く続けば続くほど、パンが発酵しているようなイーストっぽい香り(俗にシェリー臭といわれる)や、塩っぽい海の匂いが漂う、フィノ(Fino)やマンザニア(Manzanilla)というシェリー酒になる。image

シェリーはこういう超辛口の玄人受けするものばかりではなく、素人向けの甘口もある。そもそもシェリーにしろマデイラにしろ、大昔にイギリス人が自国(と植民地)の貿易振興のために作った酒で、そのために「酒精強化」という技を開発した経緯がある。甘口のワイン好きなイギリス本国では、甘いリキュールを加えて作るクリームシェリーの人気が高く、かくいう筆者もニューヨークの学生時代には、ひと瓶3ドルで買えたHarvey’s Bristol Creamを愛用していたものだ。image

ちなみに、シェリーもフランスのシャンパーニュ同様、EUのワイン法で保護されており、「アンダルシア地方の、パレミノブドウ品種などの指定品種で、シェリー製法でつくったもの」を指す。パレミノというブドウは、日本の甲州やロワールのミュスカデのように、比較的凡庸であまり特徴のない品種だ。だからこそ、こういう特殊製法に向いていると言える。最高品質のパレミノが生産されるのは、「シェリースーペリヤー」という小さな地域。今回の視察でも、その地域独特の「アルバリザ」土壌を視察した。シャンパーニュに近い白っぽい土で、小石のような表土を手にとって握りしめるとボロボロと簡単に壊れる。要は、雨の少ないこの地域に不可欠な、水分の吸収と保存が良い土質で、真夏の暑いさなかにブドウの木に必要な水分を与えることのできるテロワールだ。近年はイギリスのシェリー離れが進行し、今後の生産が懸念される。利に聡い生産者は、シェリーから普通のワインの生産に切り替え始めている。こういうデリケートなワインこそ、日本食とのペアリングに活躍できないか?悩ましい限りである。image

スペインの醸造地で出会った手作りワインとおもてなし Visiting Ribero del Duero

ブドウの中でも「高貴」といわれる品種がある。ブルゴーニュのシャルドネとピノ・ノワール。ドイツのリースリング。北イタリアのネッビオロなど だ。お気づきであろうが、品種は一定の土地とタイになっている。 スペインの高貴品種と言えば、テンプラニーリョ(Tempranillo)という黒ブドウだ。リオハが歴史的にも有名な生産地だが、首都マドリッドに近い、リベラ・デル・ドゥエロ(Ribera del Duero)という新興地域でも、最高級のテンプラニーリョを生産している。こちらはドゥエロ川(ポルトガルの国境を越えると、ドウロ川Douroとなる)を挟んだ内陸地だ。IMG_2281

IMG_2297

この地場は比較的涼しいリオハで育った場合、ストロベリートーンのエレガントな赤ワインになるが、リオハではこれにグレナッチャ(仏グルナッシュ)などをブレンドした上で、長期の樽熟成を施し、古酒にしたてる。 比して、 大陸性気候のリベラでは、真夏日には気温が摂氏40度まで 上昇するため、ブドウが良く熟成するが、 夜が涼しく、この昼夜の気温差がブドウに骨格とバランスを与えることになる。正にナパのカベルネの生育条件に近い訳だ。日光が強く、 皮が厚めに生育するので、色は濃い紫で、フレーバーはブラックベリー系のどっしりとしたワインに仕上がる。ブレンドをせずに、100%テンプラニーリョのものが多いが、リベラを世界のトップワインに押し上げたベガ・シシリア(Vega Sicilia)ワイナリーでは、これにボルドーから持ち帰って入植したカベルネを加えたりして、更に力強い洗練されたワインを作る。値段も評判も、ボルドーの一級シャトー(ラトゥール、マルゴー)と比肩し、一本150−250ドルくらいで取引されている。

IMG_2238

ベガ・シシリアに続けと、この地域では近年ワイナリーの数と質が急上昇している。なかでも、ロバート・パーカーからスペイン初の100点満点を貰ったピングス(Pingus)のワインは、そのピュアな果実の凝縮度で特出している。とはいえ、庶民が飲めないワインを取材しても、余り意味はない。ということで、今回はこれらのハウスを素通りして、家族経営のブティックワイナリーを訪問した。案内してくれたのは、訪問の数日前にドイツのプロワイン(世界最大のワイン展示会)で知り合ったワインメーカーのホセ・アルバレズ氏。同氏は大学で教鞭を取る傍ら、地元の農業組合の醸造を指導するワインコンサルタントとして尊敬を集めている。

IMG_2202

一日だけリベラを訪問したいという筆者の急な申し出に、同氏と、同氏が醸造を担当するハラミエル(Jaramiel)社のオーナー、ゴンザレス一族の手厚いスペイン風おもてなしは、心に残った。マドリッドから汽車で朝一番に到着すると、既に 車で待っていてくれ、 蔵と畑、そして周辺地域の視察。小さいながらも清潔で近代的な設備と、機材を動かしてまで醸造のユニークな行程を長い間、身振り手振りで説明して下さった英語の苦手なオーナーの真摯な熱意に打たれた。試飲したワインは、どれもアルバレズ氏の「混ぜ物なし、余計な介入なし」という作り方がストンと腑に落ちる 。同じことをリップサービスで繰り返すどこかの醸造かとは、まったく違う正直なワインである。

 

一日しか滞在しない筆者の、アドヴァイスや意見をじっくり聞きたいと、ランチに3時間半、 しかも地元在住の素敵な日本人女性通訳をわざわざご招待下さった挙げ句、夜はスペイン名物タパスバーのはしごを3時間、家族ぐるみでおつきあい下さった。時として辛口な筆者のアドヴァイスにも真摯に耳を傾けてくれた。こういう作り手を見つけ、良いワインに出会うたびに、長く辛い旅の垢を忘れて、来て良かったと思う。IMG_2321

今年も3月はヨーロッパ各地をどさ回りの旅 My March stay in Europe

昨年の今頃も、 ヨーロッパ各国を取材と視察でウロウロしていたが、今年もまた同じ季節がやってきた。近年は、春先と晩秋をヨーロッパで過ごすことが多くなっている。本来であれば、ひと月おきに欧州というのが好ましいのだが、ニューヨーク時代と違い、サンフランシスコから欧州は遠い。そこで年2〜3回づつ‘まとめて’長期滞在することになる。

IMG_2350_2

3月は世界のワインビジネスが結集するプロワイン(Prowein)という催しがデュッセルドルフで開催される月だ。各国から総計7千のワインブースが出展する超度級のイヴェントで、業界人と3日間、張り付くことになる。普段なかなか会えない人でも、会場で捕まえることができて便利だ。この季節の北半球は、畑もお蔵も静かで、イヴェントにはもってこいの時期である。

(写真は昨年のプロワインにて。本年度の写真は、フォロー記事にてアップ)

本当なら、 収穫が始まっている南半球(南ア、オセオニア、南米)へ、取材に行きたいところだが、今回も大人しくヨーロッパに滞在することにした。世界のワインを一同に試飲できるプロワインはとても効率が良いのだ。気になるワインがあれば 、その場で直接オーナーに面談を取り付けたり、醸造家に会いに行く算段ができる。その為に、イヴェントの後の一週間は、予定を入れていない。誰に会いに行くかは、会場に行かなければ分からないからだ。

IMG_2274

その合間には、ヨーロッパ各国で行われるマスターオブワイン(MW)の強化合宿やゼミナールがある。現在(3月初頭)イタリア南部の中心都市ナポリに来ているが、近隣の高名ワイナリー で、MWによる試飲と理論の講義を3日間受ける。昨年はスペインのリオハで出席したが、出席者はほぼ全員がスペイン人であった。今回はイタリア人が圧倒的に多いのであろうが、MWのプログラムはイギリス主導のため、すべて英語で行われる。とはいえ、訛りのきつい出席者の英語に悩まされるだろう。私達MWの候補者(正しくはStudentと呼ばれる)は、業界の中枢で色々な仕事をしていて意見交換も大変刺激的なのだが、北米 がワイン教育者やライター中心とすれば、ヨーロッパはワインメーカーや流通業者が多い。カリフォルニアのワインメーカーとはひと味違う彼らとの交流が楽しみである。

(静かなヨーロッパのお蔵)

この後一旦ロンドンに戻り、世界的なワインの権威であるマイケルシュースター氏に利き酒の 手ほどきを受ける。同氏はワインテイスティングの大家であり、ヨーロッパで生活をしていない(というか、アメリカ嗜好の)筆者にとっては、自分の味覚(特にワインの利き酒)がズレていないかを調整する絶交の機会である。その足で、今度はパリに短期滞在して、主なワインバーなどで米国ではなかなかお目にかかれない銘柄を試飲。そしてやっとドイツに向かい、プロワイン入りだ。会場でもMWの一日ゼミナールがあるが、そちらはワインライターや大手の流通業者が多いはずだ。その後は、前期の通り、めぼしいワイナリーを訪問し、最後にまたロンドンに戻る。勿論、別のMWに3日間缶詰で、びっしりとしごいてもらうために。こうして3月を、仕事と勉強に没頭するためヨーロッパで過ごすが、その間も締め切り記事や、顧客に依頼されたリサーチやリポートは待ってくれない。かくして丑三つ時のホテルの部屋で、はたまた移動中の機内や車内で、こうして原稿を書く羽目になる。

IMG_3048

ふと気がつくと、3月の誕生日をまたまた一人で過ごすことになる。昨年はたまたまボルドーにおり、誕生年のワインを見つけて、 自分へのギフトとして自宅に一ケース送った。さて今年はドイツで生まれ年のリースリングでも探すかな、、、。

(畑もそろそろ冬眠からお目覚め?)

ドンペリ、クリスタル、モエットなど、シャンパーニュの作り手を訪れる

モエ・テ・シャンドンの作り手、ブノワ ゴエスと最新式の工場にて

IMG_6204

日本人にとって、シャンパーニュの最高峰はドンペリニョンのようだ。芸能人や、金廻りの良い客が集まるクラブでは、ドンペリで乾杯!というのが定番らしい。この前東京のリッツカールトンに泊まったら、ドンペリ付き「特別ブランチ」をオファーされたことがある。その人気は衰えるところを知らない。

 

アメリカ人にとってこれに匹敵するのは、より高額なクリスタルかも知れない。近年では、黒人のラッパー達がもて囃し、自分のミュージックビデオで飲み干したり、歌詞に組み入れたりして一斉を風靡した。とは言え、クリスタルを販売する仏ルイ・ローデレール社社長が、 黒人ギャングに絶大な人気がでてしまった現状を指して、「誰が(クリスタルを)飲むか、こちらで選ぶことができない」という発言をして物議をかもした。高貴、高級指向の商品を、黒人ギャングの御用達にされたという思いでもあったのか。後日、その社長と一緒にランチをする機会があったので、よっぽどその後のダメージコントロールについて質問しようかと思ったが、思いとどまった。

IMG_5946

 

先月そのドンペリ、クリスタルを始め、なだたる名シャンパーニュの作り手達を訪れてきた。ちなみにシャンパーニュに限っては、こういう作り手をシェフ・ド・カーヴ(蔵のボス)と呼ぶ。ワインメーカーではない。彼らの最高にして最大の仕事は、「ブレンド」にある。何百という違う地域の畑でとれるブドウをブレンドし、ブドウ品種(白のシャルドネ、赤のピノ・ノワールやムニエ)の割合を決め、その内の何割を樽(新樽か旧樽か)ステンレス・スティールやコンクリートのタンクで醸造するのか(全く違う味になる)振り分け、どの年の古酒(リザーブワイン)を、何割ずつブレンドするのかを決定する。瓶詰め時には、「門出のリキュール」と呼ばれる甘酒をすこし加え、糖分を調整するが、砂糖の種類とベースワインの質で、味わいが大きく変化する。

 

 

(大好きなクリスタルの最高醸造責任者、ジャンーバプティストと)

寒いシャンパーニュ地方の天候は不順で、毎年ブドウ(ワイン)の質量は大きく異なる。それを上記のブレンドにより、そのハウス特有の変わらぬ味を生み出すのは、神業である。何故なら、ブレンドするのはまだ味が確定していない、樽に入れたばかりの渋いワインで、それら何百種類を利き酒して、2年後、4年後、10年後にどんな味わいに変わるかを見越したうえでの、ブレンドである。それでもモエット やテタンジェの味が毎年変わらないのは、彼らの手腕によるものだ。

IMG_6043

ちなみに、シャンパーニュはざっくり分けて(1)樽醸造をかけ、かなりの古酒を混ぜたどっしり系(クリュッグ、ボランジェなど)と、(2)ステンレス・スティール・タンクで作るフレッシュなフルーティー系(モエ・テ・シャンドン)の2種がある。毎日飲むなら後者、じっくり味わうのなら前者とは、筆者の勝手な嗜好だが、今回は朝から晩まで訪問の先々で、様々な利き酒をさせて頂いた。

 

 

 

 

(まるで修道僧ドンペリニョンの生まれ変わり?シェフドカーヴ、リチャール レフロワ)

ドンペリでは、通常のドンペリに加えて超最高級品として売り出したP1, P2, P3全てを試飲。ルイ・ローデレールではクリスタルを始め、様々なキュベを並列試飲。また、ドラピエでは、門出のリキュールの違いを利き酒するという希有な経験も。要は、超辛口の無加糖シャンパーニュ(ブリュットナチュール、ドサージゼロなどと呼ばれる)は、通には人気があるが、一般人にはちとシビアな味。そこで、加えるのがワインに砂糖を加えたリキュール。使う砂糖の種類(ブドウ糖、サトウキビ、トウモロコシなど)、糖分の量、そしてベースワインの質と年代(1年から数十年物のワインを使う)で、最終的なシャンパーニュの味が大きく変わる。 大変勉強になった。

 

IMG_6078

 

(「君は、マスターオブワインになるよ」!」と言ってくれたドラピエ氏。嬉しい!がんばろっ!)

一般人が飲むボルドーワインはこうして作られる

今年もボルドー視察の時期だ。今回は、高級シャトーがひしめく右岸、左岸 に加えて、「普通」のボルドーワインを生産する地域を視察した。中でも「二つの海の合間」(Entre deux mers)と呼ばれる大量生産地域が、取材の目玉である。

IMG_3009

「二つの海」とは、 ボルドーを挟んで縦に走る東のジロンド川と、西のドルドーニュ川を「海」に見立てたのもで、この2つの川に挟まれた広大な地域を指す。

一般に日米で購入される「ボルドーワイン」は、10ドルから30ドルが主流で、仏小売価格に引き直すと、3ユーロから9ユーロ程度。まさに大量生産地で作られるワインの典型である。ブドウは、高級品種のカベルネではなく、ボルドー中で栽培されるメルローが主。これにカベルネフランや、時としてカベルネソービニョンがブレンドされる。

 

ボルドーは中小ブドウ栽培農家が大勢を占め、フランス一番の生産高を誇る地域。大手の農家であれば、自社ブランドを作るチョイスもあるが、大抵は中小農家と共に農業組合(Co-op)を組成。数十、数百という会員農家のブドウを、組合の工場に集めることでボリュームを確保し、効率のよい一極大量生産をするとこでコストを抑え、専従の営業要員がボルドーワインとして輸出、販売を手がける。

IMG_2989

 

今回の取材先は、仏スーパーマーケットを主な販売網とし、生産の4割近くを日本やアメリカなど海外に輸出する大手数社。北の一流どころばかりを訪問した足で向かった先は、見渡す限り広大なワイン畑が続く南の内陸部。前出のグランクリュ畑は、 低木に仕立てたブドウの木が、びっしりと高密度で並び、合間に植えた 雑草が青々と茂る独特の風景。 対してこの地域では、背が高いブドウの木が、広々とした植樹間隔で植えられており、明らかにトラクター仕様に作った畑だと分かる。雑草も黄色っぽく、農薬を散布した形跡が伺われる。これはカリフォルニアでおなじみの風景だが、整然として広大な畑は、目的を持ってきちんとケアを(トラクターで)している様子が見て取れる。

 

組合を訪ね、工場を見学して驚いたのは、見渡す限り続く延々と巨大設備と、最先端テクノロジーを駆使したワインメーキング。収穫期には何百トンというブドウを満載したトラックが列をなし、その場で組合専門テクニシャンがブドウの質を3段階に仕分ける。 高品質A、Bクラスのブドウは最新鋭のオプティック・ソーターという厳密な仕分け機で、色、形、大きさによって選り分けられる。この機械は、ボルドーやナパの、超高級ワイナリーが最近使い始めた高価な機械だ。

IMG_2959

熟成度が低いCクラス のブドウは、ハイテクの高熱処理機にかけられる。 ブドウの皮に高熱を与えて、実と皮の間につまった色素と旨味を抽出し易くするわけだ。これは前回の記事で言及した、フランスのお家芸でもある。その後ジュースがワインになるまでの工程は、正に「超近代工場」の面目躍如で、スピーディーでクリーンなワイン作りに感心した。熟成中にタンクの底に沈んでいく、ブドウの皮や種などの大量の「かす」を、シャベルで掻き出すのは大変な労働だが、こちらでは、超ど級の分厚いステンレススティール製のタンクのドアを、ロボットが一瞬にして開閉し、底に溜まったかすを6秒で取り出すという。こうしてできたワインが、ボルドーワインとして一般の食卓にのる訳だ。ちなみに、シャトー・ムートン・ロスチャイルドの直系で、「リーズナブルな価格」で世界的に流通している「ムートン・カデ(Mouton Cadet)」は、ここの農業組合が生産している。

 

IMG_3034

世界のワインが ドュッセルドルフに大集合!

3月15日から17日の3日間、国際ワインエクスポ「プロワイン2015年」がドイツのドュッセルドルフで開催されました。今年は世界50カ国から5970の出展ブースが並び、武道館級の建物を9棟ほど借り切った広大な敷地に、五万二千人の業界関係者が集合し記録を更新。

IMG_2397

これだけの会場を3日で廻るにためには、当然的(まと)を絞って、効率よく廻る必要があります。まずは、プレスクラブに出向いて記者証を貰い、早速取材を開始しました。

IMG_2342

今回はアメリカ・ワインが大きなブースを構えるという事前情報があり、まずはエールを送りに立ち寄りました。ワイン新興国(ニューワールド)と、オールドワールド(ヨーロッパ)の展示場は、きっちりと分かれていますが、ナパとカリフォルニアが中心となり、オレゴンやワシントンの主立ったワイナリーが林立する会場内の、すぐ隣がオーストラリア、ニュージーランド、チリ、アルゼンチンというラインナップは、活気がありなかなかの壮観。

 

IMG_2344

 

アメリカと同じく大きな店を構えたオーストラリア。ヨーロッパから帰国した後、すぐにオーストラリアに取材に行くために、下見と挨拶を兼ねて、足を運びました。「ワイン・オーストラリア」は、国を挙げてワイン業界を振興するため政府が立ち上げた強力な団体。海外でオーストラリア・ワインを広めるべく、世界中で広報、教育活動を繰り広げています。会場ではワイン地域別のセミナーが開かれており、ワインを試

IMG_2348

飲しながら、ワインメーカーの説明を聞くことができます。興味深いワインを発見した際には、その場で当人と訪問のアポがとれるという効率の良さ。

 

次に取材したのは、滅多にお目にかかれないギリシャワイン。ブースではワインメーカーやソムリエが、珍しい品種を紹介してくれます。白、ロゼ、赤、そしてデザートワインはどれも酸味が高く、食欲をそそり、「ワインは食べ物と一緒に飲むもの」というヨーロッパの常識を見事に体現しています。ギリシャはいわゆるオールドワールド(ヨーロッパ)に属するワイン地域ですが、余り知られていないこともあって、何故か新世界と同じ敷地に設置されていました。

IMG_2350_2

もうひとつの目玉は、私の師匠でもあるマスターオブワイン(MW)達が作ったワインの試飲会。MWの資格を持つワインメーカーと言えば、アルザスのハンブレヒトMWやオーストラリアのヒルスミスMWを始め、世界的に高名な醸造家ばかり。このイヴェントは、記者証を持っていてもフリーパスでは入れず、事前の予約が必要です。会場に着くと、既におなじみのMWが勢揃いして迎えてくれ、世界各地の同級生とも再会。仕事と勉強を兼ねて、かなり難しい質問に答えて頂きました。

 

最終日はロンドンに戻る 移動日でもあり、短い時間内で目移りばかりしながらも、的をスペインとフランスの一部の地域に絞り、駆け足取材。まずはリオハの最高ヴィンテージばかりをそろえたセミナーに滑り込み。作り手の個性とヴィンテージの違いを味わいました。最後にロワール展に駆けこみ、100以上の白ワインを飲み比べ、後ろ髪を惹かれながら、タクシーに飛び乗って無事ロンドン行きの飛行機に滑り込みセーフしたのでした。はあ〜。

IMG_2371

IMG_2385

デザートワインの最高峰トカイ -  ハンガリー訪問記 (2)

ハンガリーの最高級 ブドウ品種と言えばフルミント(Furmint)。このブドウは辛口、遅摘(Late harvest)、そして最高峰の貴腐ワインのいずれのカテゴリーでも素晴らしい質を発揮します。他の地元品種もブレンドされますが、なかでも大切な役割を占める品種としてハーシュレヴェル(Harslevelu)とイェローマスカットがあります。

IMG_2303

世界最高といわれるデザート・ワインは、ハンガリーのトカイとボルドーのソーテルネが双璧となりますが、個人的にはセミヨンやソービニョン・ブラン品種で作るソーテルネは、ちょっと甘さが勝ちすぎていて重たい感じがあり、より切れがあり、しかも品種として更に可能性を秘めたフルミントで作るトカイを好みます。それはデザート・ワインとしてだけではなく、辛口ワインとして比べた場合でも、セミヨン(仏、オーストラリアを典型とする)やソービニョン・ブラン(ロワールを始め、ニュージーランド、ナパなど)と比べて、辛口のフルミントの美しい香りと深い味わいに軍配をあげてしまいます。

 

ハンガリーの地場品種なので、世界各地で栽培されているセミヨンやソービニョン・ブランの汎用性はないのですが、そこが魅力で、逆に言うとある地域でしか輩出しない美少女のような貴族的なアピールがあります。

 

香りが高い品種のマスカット、リースリング、ゲバーツとレミネールのようでもあり、より品のより控えた香水のような花の香りが立ち上る品種ですが、味わいも非常にピュアーな高い酸味とミネラル感は高級なシャルドネを思い起こします。辛口ワインでもせいぜい5ユーロからで、米国でも15ドル以下で購入出来ます。勿論質は最高級のセミヨンやソービニョン・ブランにひけをとりません。

IMG_2254

これが貴腐ワインになるのですから、その高貴さと品質は言わずもがな。しかもソビエト崩壊後のワイン業界のカオスが未だに尾を引き、その昔の最高級価格にほど遠く、現在ではとてもお買い得の品種でもあります。

デザートワインの最高峰トカイ -  ハンガリー訪問記 (1)

現在ハンガリーに来ています。ハンガリーといえば、中世の時代からヨーロッパの宮廷貴族に愛され、現在でも世界最高の2大デザートワインの一角。トカイは、ワインをさす場合はTokajiと書きますが、生産地域のトカイはTokajと綴ります。

IMG_2239

12世紀から記述の残る歴史的なトカイワインですが、生産地域であるトカイ地方は国連の世界遺産に指定されており、落ち着いた町並みと、 美しいブドウ畑の丘が続く印象深い地域。 今回の視察訪問は、ロイヤルトカイカンパニー(RTC)という伝統企業からの招聘で、実現しました。 本社のあるマッド(Mad)という町に滞在しておりますが、町中に小さなワイナリーと地下に続くお蔵がありますが、看板を掲げている訳ではないので、説明されるまで見過ごしておりました。

 

 

IMG_2244

 

本日は、総支配人のイスタヴァン トゥロッチ氏が朝から丸一日アテンドして下さり、自社畑とお蔵の見学に続いて、近隣のワイナリーの視察と試飲、その合間のマンツーマンのレクチャーまで、至れるつくせりのおもてなしを受けました。

 

IMG_2261